名古屋高等裁判所 平成9年(行コ)19号 判決 1999年1月28日
控訴人
世古正
同
丸山貢
右両名訴訟代理人弁護士
石坂俊雄
同
村田正人
同
伊藤誠基
同
福井正明
被控訴人
奥西清
同
芝宏哉
右両名訴訟代理人弁護士
楠井嘉行
被控訴人
御浜町長
同
北裏公教
右訴訟代理人弁理士
坪井俊輔
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 当審における控訴人らの被控訴人御浜町長に対する平成七年度ないし平成一〇年度固定資産税(土地建物)延滞金を徴収しないことが違法であることの確認を求める訴えを却下する。
三 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨(当審において趣旨三項の請求を拡張)
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人奥西清及び同芝宏哉は、御浜町に対し、各自九億五五〇〇万円及びこれに対する平成三年一〇月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人御浜町長がパーク七里御浜株式会社に対し、次の延滞金を徴収しないことが違法であることを確認する。
1 平成元年度固定資産税(土地建物)延滞金六〇六万八三〇〇円
2 平成二年度固定資産税(土地建物)延滞金六九三万四五〇〇円
3 平成三年度固定資産税(土地建物)延滞金六六三万五一〇〇円
4 平成四年度固定資産税(土地建物)延滞金五四三万六一〇〇円
5 平成五年度固定資産税(土地建物)延滞金三五一万〇五〇〇円
6 平成六年度固定資産税(土地建物)延滞金一八四万五七〇〇円
7 平成七年度固定資産税(土地建物)延滞金八七万二一九一円
8 平成八年度固定資産税(土地建物)延滞金一〇七万九七一六円
9 平成九年度固定資産税(土地建物)延滞金九三万三四〇九円
10 平成一〇年度固定資産税(土地建物)延滞金一三万八八三五円
四 被控訴人御浜町長がパーク七里御浜株式会社に対し、平成七年度から前年度までの固定資産税(土地建物)滞納額に当該年度の課税額を加えた金額の一割相当額のみを納付させる方法で徴収し、その余の固定資産税(土地建物)を徴収しないことは違法であることを確認する。
五 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
一 事案の概要は、原判決の事実及び理由欄「第二 事案の概要」の摘示を次のとおり加除・訂正したうえ、これを引用するほか、後記二、三の「当審における控訴人らの主張」、「当審における被控訴人奥西及び芝の反論」のとおりである。
1 原判決六頁一〇行目の「同六年度まで」を「同一〇年度第二期分まで」と改める。
2 同七頁八行目の「現在まで、御浜町長の役職にある」を「平成一〇年一〇月九日まで御浜町長の役職にあった者である」と改める。
3 同一〇頁一〇行目冒頭から同一一頁二行目末尾までを次のとおり改める。
「8 パーク七里御浜の納付すべき平成六年度までの固定資産税(土地建物)についての納付状況は、原判決別紙『パーク七里御浜株式会社に対する固定資産税の納付状況』記載のとおりであり、平成六年度までの固定資産税の未納分は平成七年八月二九日に納付され、平成七年度以後の固定資産税(土地建物)についての納付状況は、本判決別紙『パーク七里御浜固定資産税納付状況』のとおりである。また、パーク七里御浜は、平成一〇年八月二四日、平成元年度分固定資産税の延滞金のうち三五〇万円を納付したが、同年度延滞金のその余の部分及びその他の年度の延滞金については、納付していない。」
4 同一三頁五行目、同五六頁八行目の各「申立2項及び3項の請求」、同四六頁三行目、同五行目、同一〇行目、同四九頁五行目の各「申立2項及び3項の訴え」を、いずれも「固定資産税の徴収を怠る違法確認の請求」と、同一三頁八行目の「平成六年度までにつき」を「平成一〇年度までにつき」と、それぞれ改める。
5 同四四頁六行目の「投資的経費であり、」の次に「公共的公益的性格を有する第三セクター会社の維持発展を」を加える。
6 同四六頁九行目末尾に次のとおり加える。
「本件監査請求は、本件出資が違法であるとして、出資によって御浜町に与えた損害の補填を請求しているものであって、固定資産税の一〇年分割納付が違法であるというのは、本件出資が違法であることの一事情として主張していたにすぎないし、およそ納期限が未到来の固定資産税についてまで、その徴収を怠ったことによる監査請求が認められる余地はない。控訴人らが当審で追加した平成七年度から平成一〇年度の固定資産税の徴収を怠ることの違法確認請求についても同様である。」
7 同四七頁一行目の「申立2項の訴え」を「平成元年度及び平成三年度二期分以降の固定資産税延滞金の徴収を怠る違法確認の訴え」と、同一一行目の「申立2項の訴えは」を「固定資産税延滞金の徴収を怠る違法確認の訴えのうち」とそれぞれ改める。
8 同五〇頁二行目の「求めるものであり、」の次に「本件監査請求後に納期限が到来する固定資産税についてもその違法性を指摘しているものといえるから、」を、同二行目末尾に「このように解しないと、納期限が到来する毎に同趣旨の監査請求を繰り返さなければならず、監査請求をする住民に過大な負担を負わせるだけでなく、手続も複雑になる。」をそれぞれ加える。
9 同五二頁二行目から三行目の「(現御浜町長)」を「(後に御浜町長)」と改める。
10 同五五頁二行目の「納付はされなかった。」の次に「その後、パーク七里御浜は、平成七年度から平成一〇年度第二期分までの固定資産税の本税部分についても納付しているが、延滞金の納付は平成元年度の一部を除いてされていない。」を加え、同六行目の「同六年度まで」を「同一〇年度第二期分まで」と改める。
11 同五六頁二行目の「同六年度」を「同一〇年度第二期分」と改め、同三行目の「(申立2項)」と同四行目の「(申立3項)」をいずれも削る。
12 同五八頁九行目の「納付され」の次に「、その後の分についても、本判決別紙『パーク七里御浜固定資産税納付状況』に記載のとおり納付され」を加える。
二 当審における控訴人らの主張
1 被控訴人奥西に対する訴えの適法性について
本件出資の承認を審議した臨時議会において、当時の榎本信夫町長は、病弱で病院から登庁している状態で、冒頭に挨拶をしただけであって、実務は全て助役であった被控訴人奥西に委せていたため、実質的答弁は全て被控訴人奥西が行っていた。助役の権限は、町長を補佐し、その補助機関たる職員の担任する事務を監督するものであるから、実質的に町長の職務を行っているときは、町長から助役への権限の委任が行われていなかったとしても、その権限は広く解釈すべきである。したがって、被控訴人奥西は、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当すると解すべきである。
2 本件出資に公益上の必要性がないことについて
(一) 地方公共団体の出資について、それが公益上の必要性があるといえるためには、次の八要件を満たしていることが必要である。
① 当該地方公共団体に財政上の余裕があること。
② 出資目的が公益性を有すること。
③ 他の行政支出目的との関連で、当該出資が重要性・緊急性を有すること。
④ 当該出資の対象となる事業活動が、地方公共団体又はその住民の大部分の利益につながること。
⑤ 出資の方法、金額が相当であること。
⑥ 出資を受ける者の性格、活動状況に問題がないこと。
⑦ 出資に目的違反、動機の不正、平等原則違反、比例原則違反のないこと。
⑧ 支出手続き、事後の検査体制が整備されていること。
(二) しかしながら、本件出資については、右要件はいずれも満たされていない。パーク七里御浜の事業内容からみて公益性がないし、既に破綻して再建の見通しもない企業に対する出資であることなどは前記一(原判決引用)で主張したとおりであり、②、④、⑥、⑦の要件を満たしていないことは明らかであるが、他の要件についても同様である。
すなわち、御浜町は、実質単年度収支は赤字の年が多く、財政力指数(1.0以上は富裕団体)は0.23と極めて低く、公債費比率も一〇パーセント前後で推移している状態であり、財政的な余裕は全くないから、①の要件を満たしていないし、御浜町の道路舗装率及び下水道普及率は、類似の地方公共団体に比べてかなり劣っており、国民保険料を値上げする等している状況であるから、他にもっと緊急に支出すべきものがあり、③の要件も満たしていない。また、御浜町の平成二年度の歳入は四二億四五〇〇万円であり、本件出資は、歳入総額の約二二パーセントも占めるものであるから、⑤の要件も満たしておらず、本件出資をする側の御浜町の町長と、本件出資を受ける側のパーク七里御浜の代表取締役が同一人物であり、しかも町長がパーク七里御浜の借入債務について個人保証をしているから、⑧の要件も満たしていない(なお、本件出資に先立つ平成元年九月一二日に三重県による経営診断の中間報告書において、後記(四)のとおり、その問題点が指摘されていた。)。
(三) これに対し、パーク七里御浜の事業が専ら御浜町の主導によって実施されていることや、本件出資当時経営改善計画が委員会等で審議された後に策定され、その実施によって経営状態の改善が期待できると御浜町が判断したこと、あるいは、本件出資金の支出について御浜町議会の審議議決を経ていること等の事情は、御浜町側の事情であり同町自らが行ってきたことであるから、公共性ないしは公益性判断の基準にはなりえないものである。
(四) 三重県による経営診断の中間報告では、収益力、財務力、生産性とも低く、自己資本マイナス、流動性比率53.7パーセント、売上高対人件費比率51.0パーセントで今後の経営継続はかなり困難であること、また経営方針の基本コンセプトも確立されていない等の指摘がなされた。
(五) パーク七里御浜が平成二年八月二九日に策定した経営改善計画は、自己資本の充実と称して平成二年度に一〇億円を増資し、このうち九億五五〇〇万円を御浜町が出資するというものであるが、この計画は、「同会社が不動産賃貸業に専念し、家賃、共益費は固定化し、家賃は平成六年度に一〇パーセントの値上げを行い、以降三年度毎に一〇パーセントの値上げをする、共益費は平成六年度に三パーセントの値上げを行い、以降三年度毎に三パーセントの値上げをする。」という他、御浜町の前記出資や税金の一〇年分割納付など全てを第三者の力に頼るというものである。しかし、この計画は、家賃の値上げにテナントの同意を得ていないなどの内容の杜撰さもさることながら、計画書中に初期値の記載がないなど会計原則や法律に違反する不自然なものであった。それにも拘わらず、計画内容の信憑性を検討することもなく、パーク七里御浜が地域の経済の活性化に多大な貢献をしているから、倒産させるわけにはいかないという理由で出資を決断したものであり、これは著しい裁量権の逸脱又は濫用であると言わざるをえない。
(六) 被控訴人らは、御浜町はパーク七里御浜に融資している金融機関との間で損失補償契約を締結しており、仮にパーク七里御浜が倒産した場合には、その履行をせざるを得なくなって、多額の財政負担を負うことになると主張している。しかし、パーク七里御浜の役員ら関係者は、金融機関に対し、パーク七里御浜の借入債務について個人保証をしているから、仮にパーク七里御浜が倒産した場合には、これら個人も保証責任の履行を迫られるのであって、金融機関からの借入債務について、御浜町が全額の履行責任を負うものではない。
3 双方代表による無効
本件出資当時の御浜町の町長であった榎本信夫は、本件出資を受ける側のパーク七里御浜の代表取締役でもあった。したがって、榎本信夫は、御浜町の町長として本件出資を行い、パーク七里御浜の代表取締役として本件出資を受け入れたことになり、双方を代表して法律行為をしたことになる。民法一〇八条の規定は、地方公共団体の長が、自らが代表である団体との間で、双方を代表して契約を締結する場合にも類推適用されるから、本件出資は民法一〇八条違反により違法・無効である。御浜町議会の議決があっても、無権代理行為について本人の追認があったということはできない。
被控訴人奥西は、町長を補佐し、その補助機関である職員の担任する事務を監督する者として、被控訴人芝は、支出負担行為が法令又は予算に違反していないことを確認する立場にある者として、本件出資について、双方代表の点を検討すべきであるにも拘わらず、その調査を怠った過失があることは明らかであるから、この点においても損害賠償責任を免れない。
三 当審における被控訴人奥西及び同芝の反論
1 被控訴人奥西に対する訴えの適法性について
被控訴人奥西は、本件出資を行う本来的権限を有しておらず、かつ当時の榎本町長から本件出資の権限の委任を受けていなかったから、地方自治法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当しない。
2 本件出資の公益上の必要性について
(一) 控訴人らは、出資の公益性が認められるための要件として、八要件を主張しているが、これらは補助金交付の公益性についての要件として議論されているものであって、出資については同一に考えるべきではない。
また、控訴人らは、財政力指数や公債費比率を挙げて、御浜町に財政的余裕がないと主張している。しかし、財政力指数は、国が各種財政援助措置を行う場合の財政力の判断指数であって、財政力指数の低い地方公共団体に対しては普通地方交付税の措置がとられることになり、財政力指数で財政的余裕があるかないかを判断することは適当でなく、公債費比率も三重県内の他の地方公共団体と比べて特に高いわけではない。むしろ、財政調整基金の積立てという財政的余裕があったからこそ、本件出資が可能になったのであって、控訴人らの右主張は独自の見解にすぎない。
(二) パーク七里御浜が平成二年八月に算定した経営改善計画には会計原則や法律に違反するところはない。初期値の不記載や税金の分割納付の点を含め、控訴人の主張は誤解に基づくか、それ自体に誤りがあるものである。なお、右計画策定後に第二次、第三次計画を作成することになったのは、バブル経済の崩壊というかつて経験したことのない日本経済の変革、低迷に加え、金融界の不安などの諸要因によるもので止むをえなかったものである。
(三) パーク七里御浜は、第一次、第二次改善計画を経て、経営内容は確実に改善の方向に向かっている。すなわち、営業収入は増加し、営業利益も平成八年度には一七三〇万円を計上するに至った。なお、経常損益は未だ利益には至っていないが、償却前利益の点では平成五年度から黒字に転換している。
3 双方代表による無効について
控訴人らの右主張は、控訴審の終結近くになって提出されたものであり、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
また、本件出資については、御浜町がパーク七里御浜の新株発行について申込みを行い、パーク七里御浜がこれを増資として受け入れたという事実行為があるのみであり、御浜町とパーク七里御浜との間に契約関係が存在するものではないから、民法一〇八条の類推適用の余地はない。代表取締役が同一の親子会社間において、出資が行われた場合に、民法一〇八条違反の問題が生じないのと同じである。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人奥西に対する訴え、並びに被控訴人御浜町長に対する訴えのうち、平成二年度及び平成三年度第一期分の固定資産税(土地建物)延滞金を徴収しないことの違法確認を求める請求部分を除く訴え(当審で拡張された部分を含む。)は、いずれも不適法でこれを却下すべきであり、被控訴人芝に対する請求及び被控訴人御浜町長に対する右却下部分を除く請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり加除・訂正のうえ、原判決の事実及び理由欄「第三 争点に対する判断」の説示を引用するほか、後記二の「当審における控訴人らの主張に対する判断」のとおりである。当審における証拠調べの結果も、右認定を左右するには足りない。
1 原判決六二頁三行目の「なお」を「控訴人らは」と、同五行目の「とされるが」から同六行目末尾までを「とされるところ、被控訴人奥西は、病気で入院先から登庁していた町長から実質的権限を委されていた以上、前記『当該職員』に該当すると主張する。しかし、右一六七条の規定が、助役をして財務会計上の行為を行う権限を有する者とするものではないことは当然として、甲三八号証によれば、本件出資についての議会提案は町長によりなされたことが認められ、原審における被控訴人奥西本人尋問の結果によれば、町長は、体調不良の中でも、本件出資を巡る諸問題については自らが責任をもって対処するとの意向を示していたことが認められるのであって、実質上同被控訴人に町長の権限が委任されたことを認めることはできないのであるから、控訴人らの主張は採用できない。」とそれぞれ改める。
2 同六三頁四行目から同五行目にかけの「四八号証、」の次に「当審証人奥野良隆、」を加え、同一一行目から同六四頁一行目にかけての「産業の沈滞と」を「農林水産業等の沈滞と」と改める。
3 同六五頁一行目及び同六八頁八行目から九行目にかけての各「三重御浜町農業協同組合」をいずれも「三重御浜農業協同組合」と、同七七頁一〇行目の「行いながら、」を「行い、その一方、御浜町のリゾート推進室が中心となって、町からの資金援助額についても検討し、その上で」とそれぞれ改める。
4 同八〇頁八行目の「支出され」の次に「、このうち九億円は借入金の返済に、残額の五五〇〇万円は、パーク七里御浜の運営費に充てられ」を加える。
5 同八四頁一行目冒頭から同八五頁二行目末尾までを次のとおり改める。
「前記認定(原判決引用)事実によれば、パーク七里御浜の本件事業については、次の事情が認められる。
(1) 本件事業は、産業の衰退や過疎化が進む御浜町において、商業を中心とする産業振興の期待を担っているものであり、経常利益をあげるには至っていないものの、御浜町にとって、集客や雇用の場の創出等一定の効果を挙げているといえる。
(2) パーク七里御浜は、御浜町の主導によって計画され設立に至ったものであり、御浜町が過半数の株式を保有しており、通常の民間企業とはその性格が異なっているが、当初から事業費に比して自己資本が過少であるという問題を有しており、これを解消するための増資を行う場合、御浜町が一切増資に応じないままで、御浜町以外の団体や企業がその増資に応じることは困難であった。
(3) 本件出資当時、パーク七里御浜の経営状況は相当悪化しており、和議や会社更生による再建も一部で指摘された程で、単なる自助努力だけで大幅な増資を行わない場合、近い将来に経営が行き詰まる可能性が十分予想された。
(4) 本件出資当時、パーク七里御浜は、三重県の経営診断を受けて、経営改善計画が策定されており、これを実施することによって、今後経営状態が改善されることが期待できる状態にあった。
(5) 仮に御浜町が本件出資に応じないで、パーク七里御浜が倒産した場合、御浜町はパーク七里御浜に融資している金融機関から損失補償契約の履行を要求され、一三億円を超す債務の履行を余儀なくされるおそれが強かった。」
6 同八六頁三行目の「ないというものではない。」を「ないというものではなく、その施設の内容や性格が公益性がないといえるかどうかという観点から検討すべきものである。」と改める。
7 同八七頁一一行目冒頭から同八八頁三行目の「鑑み」までを次のとおり改める。
「本件出資後の経過をみると、甲四五、七八号証及び乙イ四五号証によれば、本件出資当時定められた経営改善計画については、その後計画どおりには実行できず、御浜町等からのさらなる支援を要請する等、見直しを迫られていることが認められる。また、前記争いのない事実(原判決引用)及び甲二四、二五、四二、四七号証、五四号証の一、二、甲五七、六五号証によれば、パーク七里御浜は、設立以来、営業損益及び最終損益について赤字が続いていたが、営業損益については第九期(平成六年四月から平成七年三月)以後は黒字に転じており、支払利息が多額である関係で、最終損益については未だ赤字が続いており、累積赤字も増大しているが、各決算期の最終損失については減少傾向が続いていることが認められる。このように、パーク七里御浜は、本件出資後も厳しい状況が続いており、その先行きには楽観を許さない面がある以上、本件出資当時の経営改善計画については、見通しの甘さを指摘されてもやむを得ない面があるといえ、最近の厳しい経済情勢の中で、経営状況は僅かながらも改善傾向になっている。
こうしてみると、パーク七里御浜が地域活性化に一定の役割を果たしていることは否定できないし、本件出資によって当面の危機を回避して会社更生や和議の手続を免れたことの意義は大きいというべく、しかも、パーク七里御浜が既に破綻していたということはできないのであるから、結論として、」
8 同九九頁八行目の次に行を改めて次のように加える。
「5 控訴人らは、各年度における個別の固定資産税の徴収を怠る事実は派生的な問題にすぎず、本件監査請求により、本件監査請求後に納期限が到来する固定資産税の徴収を怠る事実についても、その違法性を指摘していると解すべきであると主張する。
確かに、監査請求にかかわる行為又は事実から派生し、またはこれを前提として後続することが必然的に予測される行為又は事実については、改めて監査請求をすることなく、住民訴訟を提起できると解すべきである。しかし、前記判断(原判決引用)のとおり、控訴人らは、パーク七里御浜の平成二年度及び平成三年度第一期分の固定資産税について、被控訴人御浜町長が徴収を怠る事実についても監査請求をしたと認められるものであるが、被控訴人御浜町長がパーク七里御浜の平成三年度第二期分以後の固定資産税の徴収を怠る事実は、新たに発生した行為又は事実であって、平成二年度及び平成三年度第一期分の固定資産税の徴収を怠った結果発生した行為又は事実ではないし、それを前提として後続的に発生した行為又は事実ともいえない。勿論、パーク七里御浜という特定の納税義務者の固定資産税の徴収を怠ることは、年度は異なるとしても、同一の理由に基づくことが多いものであるから、全体として密接に関連していることは事実であるが、怠る理由の同一性を基準として監査請求と住民訴訟の各対象事項の同一性を判断することは、不明確な基準によって判断することになるから、妥当でない。確かに、長期の年度にわたって、特定の納税義務者の固定資産税の徴収を怠る事実が発生した場合、住民は納期限が到来する毎に同趣旨の監査請求を繰り返す必要が生じるが、納税義務者の事情は年月の経過により変化するものであり、必ずしも同一の事情のみで固定資産税の徴収を怠り続けるとは限らないものであるから、住民の監査請求の理由も年度によって異なってくることも考えられ、その都度地方公共団体の自治的、内部的処理によって是正する機会を与えることは意味のあることであり、監査請求を繰り返す必要が生じることになってもやむを得ないところである。」
9 同九九頁九行目冒頭から末尾を次のとおり改め、同一〇行目の「同2項の」を削る。
「6 以上のとおりであるから、控訴人らの被控訴人御浜町長に対する本件訴え(当審で拡張された訴えを含む。)のうち、」
10 同一〇六頁八行目末尾に次のとおり加える。
「もっとも、直ちに納税することが困難な場合に、右換価の猶予、徴収猶予(地方税法一五条)又は滞納処分の停止(同法一五条の七)等の措置を必ずとらなければならないものではなく、納付の意思があり、徴収権が消滅時効にかからない措置がとられている限りは、右のような緩和措置をとらず、いつでも滞納処分をとることができる状態を維持したまま、滞納処分をとらないでおくことも裁量権の範囲内として許されるものである。」
二 当審における控訴人らの主張に対する判断
1 被控訴人奥西に対する訴えの適法性について
控訴人らは、当時の榎本町長が病弱であったため、被控訴人奥西が同町長から実質的には全ての事務を委され、本件出資の承認を審議した臨時議会においても全て答弁していたから、被控訴人奥西は地方自治法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当すると解釈すべきである旨主張する。しかし、右「当該職員」に該当するかどうかを、そのような実質的な決定権を有していたかどうかによって決定することの当否はともかくとして、先に認定したとおり、被控訴人奥西が本件出資につき、町長に代わる実質的権限を有していたとは認められないのであるから、控訴人らの右主張は採用できない。
2 本件出資の公益上の必要性について
(一) 控訴人らは、公益上の必要性があるかどうかの判断基準として八つの要件を主張しているが、右の八要件により判断すべきことが必須であるかどうかはともかくとしても、本件出資が公益上の必要性がなかったどうかの判断にあたって、考慮すべき事項であることは確かである。
控訴人らは、財政力指数や公債費比率を指摘して、御浜町の財政規模や財務状況からみて、本件出資の金額が明らかに過大なものであった旨主張している。甲七一号証によれば、平成二年度の御浜町の歳入は約四二億円であることが認められるから、これと対比すれば本件出資が御浜町にとって多額の出資であることは確かであるが、控訴人らが指摘する財政力指数は、通常財政規模における地方税収入(独自財源)の占める割合を示すものであるところ、甲七〇ないし七五号証によれば、御浜町においては、地方交付税や国及び県からの支出金が歳入の大部分を占めていることが認められるから、財政力指数で御浜町の財政に余裕がなかったかどうかを判断するのは相当でなく、公債費比率についても、御浜町が他の町村に比べて著しく高いことを認めるに足りる証拠はない。したがって、御浜町の財政規模や財務状況からみて、本件出資の金額が、裁量権を逸脱したといえるほど、明らかに過大なものであったとはいえない。なお、控訴人らは、右財政規模との関係で御浜町においては社会施設の整備が著しく遅れていることを指摘するが、三重県南部地区の市町村において、特に同町の社会施設整備が立ち遅れているとは認められないところである。
また、控訴人らは、パーク七里御浜の役員ら関係者が金融機関に対し、パーク七里御浜の借入債務について個人保証をしているから、仮にパーク七里御浜が倒産した場合でも、御浜町が全額の履行責任を負うものではない旨主張している。しかし、甲二六号証の一ないし五によれば、御浜町と金融機関との間の損失補償契約においては、パーク七里御浜が借入債務の返済を怠ったときは、御浜町が履行責任を負う旨が約定されており、個人保証をしている連帯保証人に劣後して責任を負う旨は規定されていないことが認められるから、パーク七里御浜が倒産した場合には、御浜町は金融機関に対して無条件で履行責任を負うことになるのであり、金融機関の立場からみれば、支払いを確実に受けられるという面からみて、第一次的に御浜町に請求することが予想されるのである。したがって、御浜町が支払った後の個人保証をした連帯保証人に対する求償関係が生じることは別にしても、パーク七里御浜が倒産した場合には、当面は御浜町が全額の返済責任を負わなければならないことを前提として、本件出資の公益上の必要性の判断に際して、右事情を考慮すべきである。
(二) 本件出資に至る経過として、三重県による経営診断がなされ、その中で収益力、財務力、生産性とも低いなどいくつかの問題点が指摘されたが、これを受けてパーク七里御浜と御浜町による改善計画が策定され、ここにおいて本件出資が再建の一つの柱とされたことは控訴人らの主張するとおりである。右経営診断や改善計画で指摘され、あるいは検討された経営上の問題点をみると、本件出資の時点における経営状態は、相当に深刻で先行きは暗いものであったことは否定できないところである。したがって、こうした状況下で財政調整基金をも取り崩してまで新たに多額の投資をすることについては、より慎重でなければならないことは当然である。
しかしながら、既に認定してきたとおり、パーク七里御浜が過疎に悩む御浜町において産業振興の一翼を担っていること、本件出資がない場合御浜町が本件出資額を超える一三億円に及ぶ債務の履行を余儀なくされ、町政に大きな混乱をもたらすことになること、将来における経営状態の改善が見込めないわけではないこと等の諸事情に照らすと、御浜町が選択肢の一つとして、本件出資をすべきものと判断したことは、公共性ないしは公益性の観点からみて、行政において許容される裁量の中に止まるものと評価して差し支えないものである。
(三) その他、控訴人らが当審において主張している理由も、本件出資について公益上の必要性がなかった根拠とするには十分でなく、控訴人らの主張は採用できない。
3 双方代表による無効について
被控訴人奥西及び芝は、控訴人らの右主張は時機に後れて提出された攻撃防禦方法であるから、これを却下すべきであると申し立てる。確かに、右主張は、当審第五回口頭弁論期日において、初めて提出されたものであるが、そのために新たな証拠調べを要したわけではないから、訴訟の完結を遅延させるものということはできない。そして、同期日に口頭弁論が終結していることに照らせば、右申立は理由がない。
しかるところ、民法一〇八条の規定は、地方公共団体の長が、自らが代表である団体との間で、双方を代表して契約を締結する場合にも類推適用されるべきであることは、控訴人ら主張のとおりである。ところで、民法一〇八条の規定は、双方代理が一般的に本人と代理人との利益が相反することからこれを禁止したものであるから、形式的には双方代理ではあっても、利益相反となることがない場合には、民法一〇八条は類推適用されないと解すべきである。
本件出資は、パーク七里御浜が発行する新株を、御浜町が町議会の承認議決に基づき、額面で引き受けるというものであって、新株の発行価額は確定しており、交渉により価額を変更する余地がないから、本件出資自体に違法性が認められない以上、御浜町及びパーク七里御浜と代表者との間で利益相反となることはない。よって、本件出資については、民法一〇八条は類推適用されず、同一人物が御浜町及びパーク七里御浜の双方を代表してこれを行ったからといって、それが無効となるものではない。
したがって、控訴人らの主張は採用できない。
三 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、当審において控訴人らが追加した訴えは不適法であるから、これを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮本増 裁判官 野田弘明 裁判官 永野圧彦)
別紙<省略>